芦屋発美術家集団「具体美術協会」の展覧会を、大阪中之島美術館とお隣の国立国際美術館で共同開催しています。中之島美術館の展示を、学芸員さんの解説を聞きながら見ました。
具体美術協会
具体美術協会は1954年に芦屋で結成された美術家集団。
吉原製油(現 J-オイルミルズ )の社長、吉原治良が中心となった集団です。
吉原さんが亡くなった1972年に解散。
今となっては当たり前の、環境を巻き込む作品、新しい素材を積極的に使った作品など実験的な作品ばかりでおもしろい!
1950年代にこれらを見たらすごい衝撃だったろうと思います。
「人のまねはするな。今までにないものをつくれ」が具体の基本ですが、ホントにその通りの作品ばかり。
具体の作品は阪神間の美術館では目にすることが多く親しみがありますが、他地域ではそうでもなかったようです。
2013年にニューヨークのグッゲンハイム美術館で具体展が開催され、200万人以上の動員(激混みだった岡本太郎展で16万人だそうです)があったことをきっかけに注目されました。
今や作品の評価が高まり、価格も高騰しているそうです。
大阪中之島美術館での展示「分化」
「分化と統合」の「分化」が中之島美術館の担当で、個々の作家の作品に焦点を当てた展示。
「統合」は国立国際美術館の担当で、「具体」というグループに焦点を当てた展示になっているそうです。
いかにも関西の方って感じの親しみやすい担当学芸員さん(具体の専門家)によるおもしろ作品解説をききながら1時間の観覧でした。
おさらいがしたければ再入場もさせてもらえます。
展覧会のチケットがあればおもしろトークがきけて2周まわれるなんて、こんなおトクなことある?
ロビーに額縁が吊るされて見る場所によって額の中の風景が変わる村上三郎の「あらゆる風景」という作品があります。
トイレは向井修二の「記号化されたトイレ」という作品ですが、もちろん普通に使えます。
利用者に配慮すれば撮影もOK。
今回の展覧会で撮影OKの作品は中之島美術館の収蔵作品だそうです。
空間
とくに空間へのアプローチが重要な作品が展示されています。
とにかく大きくておもしろくてきもちいい。
船でおわかれのときに使う紙テープが天井から吊るされた吉原通雄の「作品」。
隣に対になったような絵もあります。
紙テープは制作当時のものではなく、この展覧会のために新しく1000本ほど用意してつくったそうですが、作ってすぐのボリュームに比べると重量と湿気でちょっとしょぼくなったそうです。
壁沿いの床に等間隔にベルが並べてあり、ジリリリリリンと順番に音が鳴り(うるさい!)、だんだん遠ざかり、また戻ってくる作品があります。
音で空間を作る田中敦子「作品(ベル)」です。
田中さん作品は具体の作家さんの中でダントツにおもしろい。(個人の感想です)
カラフルな電球と電球管で作った「電気服」は30分に1回ぴかぴか光ります。
四方八方にカラフルな光を放って光の空間を作ります。
感電死の危険があるこの服を、作者は殆ど着ることがなかったそうです。
感電防止のためレインコートを着てこの作品を着ていたそうですが、電気屋さんによるとあまり意味がないらしく、ウエットスーツなら安全なんだそうです。
1956年にウエットスーツって、普及していたんだろうか。
電気服の後ろに展示されている設計図?「無題〈3〉」~〈10〉は紙にクレヨンのドローイングでとてもおしゃれ。
電気服の横の壁には元永定正の大きな抽象画、「作品」があります。
赤、黄と少し緑が混じった大きな塊のふちにキレイな色がちらちら見える、後年の元永先生の絵本を思わす作品です。
「新しい流行の素となる作品を作ろうと爪を研いでいる」みたいなことがかいてあるキャプションつき。
かっこいい!!
もこ もこもこ (ぽっぽライブラリ みるみる絵本)
物質
具体美術の「具体」は、「人間の内面を物質によって具体的に提示する」が由来だそうです。
素材(物質)が生かされた作品が多く展示されていました。
嶋本昭三(昭和三年生まれなんですって)の「1962-1」はガラス瓶に入った絵具をキャンバスに投げつけて作った絵。
ガラスの破片もそのままで、絵具の流れ方、絵具の固まり方、筆と違って自分ではどうにもならない力で作った実験みたいな絵。
制作当時発売すぐのコニシボンドを使った作品もありました。
ボンドが半乾きのときにストローで空気を入れて膨らましたり切れ目をいれた松谷武判の作品。
ジャンルがなんだかわからないフラスコから泡がぶくぶく出ている作品(吉田稔郎「FOMA-A」)もありました。
コンセプト
具体の中心人物、吉原治良は作品の説明が嫌いだったそうです。
だから具体は作品のタイトルも「作品」「無題」「UNTITLED」が殆どです。
吉原さんに作品を見せると「ええなー」か「あかん」しかなくて、何が「あかん」のかの説明は一切なかったそうです。
たしかに、他人の「ええ」「あかん」も正しいわけじゃないし、すべては自分で考えることですもんね。
わたしが学生時代の先生方は具体スタイルの教育でしたが、今は「どうすれば作品がよくなるか説明してほしい」と学生から要求されます。
説明の時代でございます。
それはそうと、具体の作品でもコンセプトが作品の中心になったものがあります。
けれどコンセプチュアルアートのように「作品<コンセプト」というわけではなく、「作品>コンセプト」なんだそうです。
金山明の「Mar.5」~7は、ラジコン自動車に水性ペンをつけて走らせたオートマティックの作品。
ペンの試し描きの集積みたいな、ラジコン自動車くんのドローイングです。
「前略~そんなものやおまへん。失敗をぎょうさんしました。失敗を半分して、絵になったのは少しです。」
とキャプションが関西弁でかいてありました。
村上三郎の「空気」はガラス板で作った立方体にその当時・その場所の空気が閉じ込めてあります。
当時(1956年)一般にまだあまり普及していなかった「セロハンテープ」でガラス板がとめられています。
新しいもの好きの具体作品。
作品は展示が終わるとばらして保存するので、今回とじこめられた「空気」は組み立て直した2022年10月の空気だそうです。
田中敦子「作品〈黄色い布〉」はそのへんに売ってる木綿布の上から布を貼ったり継ぎ目を作ったり、田中さんのやり方で加工した布が3枚。
保護シートのついたマグネットで、指定の位置を守って、ドレープの形も守って…所蔵美術館の詳細な指示通りに展示されています。
名古屋にあったものを外国の美術館が買い上げており、借りるための費用が円安で大変だそうです。
ギャラリートークは展示エピソードが聞けることも楽しみのひとつです。
場所
具体は展示場所を大切にしています。
これもまた、1950年代なのにすごい!と思うのです。
中之島にグタイピナコテカという展示場所を持っていたし、野外でもやっている。
大空を展示会場にして作品をアドバルーンに吊った、「インターナショナル スカイ フェスティバル」の映像がありました。
2022年11月15日から20日まで、中之島美術館でもそれを再現されます。
現在大阪市では禁止されているアドバルーンの許可を「芸術です」といってとったそうです。
具体と同時代に大人だったらもっともっと楽しかっただろうなあと思う展覧会でした。
国立国際も見に行かなければ!わくわく。
すべて未知の世界へ―GUTAI 分化と統合
会期:2022.10.22(土)~2023.1.9(月・祝)
開館:10:00~17:00(入場は閉館16:30まで)
休館:月曜日(2023.1.2と2023.1.9は開館)、2022.12.31(土)、2023.1.1(日)
観覧料:一般 1400円、大学生 1100円、高校生18歳以下無料 国立国際美術館との2館共通券2500円
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