日本武道館のすぐ近く、東京国立近代美術館でドイツの巨匠・ゲルハルト・リヒターの個展が開催されています。
ゲルハルト・リヒター財団とご本人所蔵作品中心。「ひとりグループ展」って感じのバラエティ感でした。
ゲルハルト・リヒター展
ゲルハルト・リヒターは1932年社会主義体制の東ドイツ生まれ。
1961年ベルリンの壁ができる直前に西ドイツに移住し、政治体制の違う国で美術教育を受けなおして独自の作品制作をされます。
東京では初の個展で、会場構成は今年90歳のリヒター本人が手掛けられたそうです。
順路がなくて、時系列でもなくて、行きつ戻りつ楽しく見られる展覧会です。
ゲルハルト・リヒター
5月まで心斎橋のエスパス ルイ・ヴィトンで行われていたリヒター展は、この個展のダイジェスト版だったんですね。
8枚のガラス
「8枚のガラス」という大きなガラスと金属でできた作品が会場中心に置いてあります。
展示作品や観覧者がこのガラスに映り込み、消え、刻々と見え方がかわります。
作品を見る方向によっても全然かわるし、おもしろくて何回かこの作品に戻って来て眺めてしまいました。
3年ほど前、天気のいい明るい日にWAKO WORKS OF ARTでたまたま見たリヒターの個展にこの作品が展示されていました。
同時に壁に展示されていたのは森の小道の写真をインクジェット出力したものが24点。
写真は全部同じものだけど1枚づつにひっかき傷がついていて、結局全部違う作品になっているPATHという作品でした。
8枚のガラスには同じ緑の写真が映ったり消えたりして、ナチュラル映像作品ができていていました。
周囲の環境、光、時間を巻き込む作品、なんておもしろいの。
この作品を環境の違う他の会場でも見てみたいものです。
ビルケナウ
日本初公開の目玉作品。
アウシュビッツ・ビルケナウ強制収容所で囚人が隠し撮りした悲惨な写真をもとに描いた作品です。
写真をそっくり模写して表面をこすってぼかすフォトペインティング作品となるはずだったけれど進まず、削ったり描いたりするアブストラクト・ペインティングとなったそうです。
元になった写真は隠し撮りだけあってぼやけているし傾いているし、画像としては全くリアルではありません。
それが却って当時の状況をリアルに感じさせるのでした。
展示室奥の壁面いっぱいに「グレイの鏡」があり、右壁面のビルケナウ、左壁面の絵画と同サイズの複製(写真)、対面の囚人が隠し撮った写真、そして観覧者が映りこんでいます。
大がかりです。
第二次世界大戦時ドイツの子どもだったリヒターは、ホロコーストについて表現せずにはいられないんですね。
ビルケナウを売りたくなかったから、ゲルハルト・リヒター財団を作られたんだそうです。
重たい作品です。
カラーチャート
カラーチャートは絵具の見本帳をもとに正方形のカラーチップを25色作り、無作為に並べた作品だそうです。
既にあるもの(見本帳)を使って無作為に並べる…ってダダ(美術史の)みたいです。
色の組み合わせは空間ごとに変わります。
グレイ・ペインティング
グレーはリヒターにとっては、何の感情も連想も生み出さない「無」なんだそうです。
そのグレーを使ってベタ塗だったりムラ塗だったりテクスチャがあったり鏡だったり…。
反対色を混ぜたらグレーになるし、パレットに色々でている色を混ぜたらグレーになる。
けっこういろんな感情や連想を生み出すんだけど…。
オイル・オン・フォト
写真に油絵具などを塗った、写真?絵?のシリーズ。
写真が絵具で隠れるので写真としての情報がわからずイライラします。
絵としては抽象絵画として普通におもしろく見ることができます。
ほかにも…
過去の抽象絵画から作った大きなマルチストライプのデジタル作品「ストリップ」は、
近くで見ると回るコマの中にはいったような気分。
写真をそのままキャンバスに描き、こすってぼかしたフォトペインティングをはじめてたくさん見ることができました。
アカデミックな勉強をがっつりし、基礎をしっかり固めておられるのがよくわかります。
この腕があるから、どんなアイデアも表現できてしまうんですね。
基礎訓練はだいじです。
フォトペインティングが映像になったようなぼけぼけの「フィルム:フォルカー・ブラトケ」はちょっと笑うような作品。
複数色の絵具上にガラス板を置いてむぎゅっと定着させた「アラジン」は、ガラスにくっついたタコの足をみるようで気持ち悪い。
そして!昨年作ったという鉛筆で描いた?ドローイングがたくさ~~んありました。
長く意欲的に続けられるのは、やっぱり特別な人です。
ひとりグループ展
いろいろな技法で、いろいろな素材で、絵(とは言い切れないものもありますが)を見るっておもしろいなあ!と思う展覧会でした。
ひとりの作家の「個展」ですが、作品がバラエティに富んでいるのでグループ展のようです。
今回イヤホンガイドを借りました。
ナビゲーターは女優の鈴木京香さん。
抑えた柔らかい声、一本調子な語りがいい感じに不気味でした。
さすが女優さんです!
芸能人のイヤホンガイドはロクなのがありませんが、鈴木さんのはとてもよかったです。
丁寧に暮らすために。 my favorites A to Z
東京国立近代美術館
東京メトロ東西線竹橋駅 1b出口から出て、毎日新聞社ビル前の横断歩道を渡ればすぐ。
毎日新聞社ビルに飲食店が入っているので、腹ごしらえができます。
ゲルハルト・リヒター展
会場:東京国立近代美術館 1F企画展ギャラリー
会期:2022. 6.7(火)~2022.10.2(日)
休館日:月曜日(7.18と9.19は開館)7.19(火)、9.20(火)
時間:10:00~17:00(金・土は10:00~20:00)入館は閉館30分前まで
観覧料:一般 2200円、大学生 1200円、高校生 700円、中学生以下無料
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