津村記久子さんの長編小説「水車小屋のネネ」。読み終わるのが惜しいけど読み進めずにはいられない物語でした。

水車小屋のネネ 津村記久子 カバーイラスト
「水車小屋のネネ」毎日新聞出版 カバーイラスト。本をこんな置き方してはいけません。

芥川作家(第140回『ポトスライムの舟』)津村記久子さんの最新刊。
書店の紹介によると「著者最長編にして最高傑作!」だそうです。

目次

津村記久子

「ポトスライムの舟」や、近年映画になっていた「君は永遠にそいつらより若い」の作者 津村記久子さん。

鋭いお笑い要素があって、音楽やデザインのセンスがよくて、淡々としていてとても心地よい小説ばかり。
たとえそれが深刻な状況の物語であっても。
関西の作家さんなので、場所が特定されていなくても「あのあたりのことかなあ」と思いながら読むことができるという楽しみもあります。
とても好きな作家さんです。

電子書籍化された本が少ないので、基本は紙の本で読まねばなりません。
単行本の場合は挿絵や装丁もすてき。

めちゃくちゃ現実的なところにファンタジーの微風が通り抜ける作品は心地よくて読み終わるのが惜しい、けど読み進めずにはいられない。
「水車小屋のネネ」もそんな小説でした。

水車小屋のネネ

毎日新聞夕刊で連載されていた小説だそうです。
連載小説が全部面白いとういう理由のみで長い間毎日新聞を購読していました。
が、それを上回る記事のしょ~もなさ(個人の感想です)に我慢できず思い切って購読をやめました。
そのあと津村さんの連載が始まってたんですね。
悔しい…いや、本で読めるからいいんですけど。
新聞小説を書籍化したものは、同じ説明が何度も出てきてリズムが崩れることがあります。
この小説はそれがあまり気にならぬよう作ってありました。

理佐と律という歳の離れた姉妹の40年間のお話です。
物語のスタート時は18歳と8歳。
姉・理佐の短大の入学金を母親が婚約者に貢いでしまい、理佐は短大に行けなくなります。
婚約者は家に入り込んで妹・律を虐待します。
母親は婚約者のいいなりというよくある状況。
理佐は仕事を探し、律を連れて家を出ます。

就職したお蕎麦屋さんの仕事内容は、お店の事プラス「鳥の世話じゃっかん」。
お蕎麦屋さんでは水車を動力として石臼でその日に挽いた蕎麦粉を使っています。
水車小屋でその作業を見張っているのは灰色で尾が赤いヨウムのネネ。
おしゃべりができるネネが、「空っぽ!」というと人間が石臼に蕎麦の実を補給します。
ネネはおしゃべりも音楽も好きなので、ラジオを聞かせたり話相手になるのも仕事の一部。
姉妹はお蕎麦屋さんに仕事と住居を用意してもらい、つつましく生活します。

お蕎麦屋さんのご夫婦、近所に住んでいる画家、律の学校の友達や先生、お店のお客さん、近所の農家の人、地域の婦人会の人…出てくる人が全員いい人で、姉妹は彼らの良心のもとで生活し成長してゆきます。
40年にわたる話なので、年長者から若者へ重なりながらどんどん親切が続いてゆきます。
たぶんお姉さんはわたしと同じ歳です。
従って、時代背景がよくわかります。

自然いっぱいの地方都市に暮らす良い人たちの物語。
終わるのが惜しいけど読んでしまいました。
この小説が津村さんの最高傑作かどうかはわかりませんが、しばらくはこの世界をかみしめていたいと思わされました。

水車小屋のネネ 装丁

ゆず手帳(B6:128×182mm)よりちょっと大きめで、厚みは3㎝ぐらいあります。

ソフトカバーなので、分厚くても重たくなく読みやすい。
表面が絹目のシボになっているカバーに北澤平祐さんのやさしいイラストレーション。
舞台になっているお蕎麦屋さんや水車小屋、姉妹のアパートなど地域の風景とそこに暮らす登場人物たちの絵です。
以前インタビューで、北澤さんはフォトショップで絵を描いているとおっしゃっていました。
これもきっとそうなんでしょう。
便利な画材を使いながら素朴な仕上がりがステキ。
本文の白黒イラストももちろんすてきで、新聞紙への印刷で見たらもっといい感じだったんだろうと思われます。

「水車小屋のネネ」毎日新聞出版 176ページ

ううむ、やっぱり新聞で読みたかったかも。

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